過去の研究内容
遺伝子制御ネットワークと細胞状態の多様性
一般に遺伝子の発現は、転写因子が調節領域に結合することにより、コントロールされています。ある時点での遺伝子の活性状態は,次の瞬間の遺伝子の活性状態を決めます。この繰り返しによって遺伝子全体の状態は、時間とともに、ダイナミックに変化するのです。我々の体が発生する際には、細胞間の相互作用をきっかけとして、細胞ごとの活性遺伝子に違いが生じ、多様な細胞状態を作り出すのだ、と考えられます。
我々は、遺伝子ネットワークを一般的に扱える数理モデルを開発し、遺伝子の活性状態の力学を解析しました。特に、活性状態が変化していった結果の、最終状態(細胞の分化状態にあたる)に、注目しました。 興味深い結果の一つは、「遺伝子の数や相互作用の数は、細胞状態の多様性に寄与しない」と、証明できたことです。「たくさんの遺伝子があることで、我々の複雑な体が作り出される」といった表現を耳にしますが、 これは間違いだと言えます(Mochizuki, A. (2005) An Analytical Study of The Number of Steady States in Gene Regulatory Networks. J. theor. Biol. 236, 291-310.)。現在、複雑な遺伝子制御ネットワークから、細胞状態を制御する特に重要な部分構造を、抽出する方法を開発中です。