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細胞間接着力と細胞選別

発生に伴う接着力の変化の形態形成における重要性は、多数の実験によって示されている。例えば和田、井出らはトリの肢芽形成期の細胞を取り出して混合し培養する細胞選別実験を行い、同じ組織由来の細胞どうしからなるクラスターを作らせる実験を行った。この現象を細胞選別という。彼らは混ぜた細胞の発生段階が離れているときに大きなクラスターができることを示した。これは、発生の進行にともなう細胞表面の接着分子の変化の結果だと考えられるが、具体的な変化については明らかではない。数理モデルに基づき、実験写真から接着力の変化を読み取る方法について、研究している。

細胞選別の過程を数理モデルを用いて解析した。格子空間上に黒と白の2種類の細胞が分布し、最近接細胞の入れ換わりによってパターンが変化するとした。細胞間には、細胞の種類によって異なる大きさの接着力が働き、その合計が増加する方向に細胞の移動がより起こりやすいとした。接着力が(黒-黒接着力)+(白-白接着力)>2×(黒-白接着力)であるとき、細胞移動の繰り返しによって黒白それぞれの細胞のクラスターができる。

ランダムに選んだ黒細胞の隣にやはり黒細胞がある確率として、黒細胞の局所密度Qb/bという統計量を導入する。これが0.5の時、細胞分布はランダムで、1に近いほど同種細胞が固まっている。Qb/bにより細胞選別の度合いを定量化することができる。

黒細胞の局所密度の平衡状態での値は、近似解ではあるが解析的に予測できる。これにはペア近似という方法を使う(分布の空間的な相関を、隣どうしまでの相関で近似する方法)。平衡状態のQb/bは差次接着性Aと細胞の運動性mの比A/mの増加関数である。ここで差次接着性Aとは(黒-黒接着力)+(白-白接着力)-2×(黒-白接着力)という量。(Mochizuki, A., Iwasa, Y. and Takeda, Y. (1996). A stochastic model for cell sorting and measuring cell-cell adhesion. J. theor. Biol.179, 129-146.; Mochizuki, A., Takeda, Y., Ide, H. and Iwasa, Y. (1997). A stochastic model for cell sorting and its application. Forma12, 107-122. )

しかしこの結果を実験写真の読み取りに用いることには問題がある。(1)写真にとられた実験の状態が平衡状態だと仮定しなければいけない。(2)平衡状態は差次接着性Aと細胞の運動性mの比A/mの関数なので、fittingして得られる値もAそのものではなく、A/mである。

そこでモデルの非平衡過程に注目し、多数の計算機シミュレーションを行った。Qb/bの時間変化を表す一般式を差次接着性Aと運動性mのそれぞれに依存する形式で得た。

一方で鳥の肢芽形成期の細胞を混ぜる選別実験を、様々な発生段階の細胞の組み合わせで行い、細胞分布の変化を時間を追って写真に記録した。その写真を画像解析し、Qb/bの値を読み取った。求めた式を実験のQb/bの時系列データに当てはめることによって、Aとmの値を推測できた。

差次接着性Aは混ぜる細胞の発生段階が同じ時にはほぼ0だが、細胞の発生段階が異なるときは正であり、発生段階が離れているほど大きいことが分かった。(Mochizuki, A., Wada, N., Ide, H., and Iwasa, Y. (1998). Cell-cell adhesion in limb-formation, estimated from photographs of cell sorting experiments based on a spatial stochastic model. Developmental Dynamics 211: 204-214.)